ロックンロール紙芝居電子版

Rock 'n' Rollの「'n'」になりたい

ストレイテナーはひねくれることにまっすぐなまま

1998年という年に何をしていたか? 僕はその年だいたい高校一年生であり、始めたばかりのエレキギターを毎日練習し、次第にヒットチャートを飾る音楽だけではなくロックを聴き始めるようになった年であったように記憶している。
1998年は音楽シーンでいえば、くるりナンバーガールスーパーカーGRAPEVINETRICERATOPSらがこぞってデビューをした翌年で、革ジャンやスーツや花柄のシャツではない普段着のまま、決して愛ばかりを歌わないバンドが僕の視界に多く現れ、ロックの風向きが変わっているのかなと感じさせていた頃だ(というのは錯覚かもしれない。若い頃の、遠い昔の記憶は美化されてしまいがちなのかもしれないなと警戒しつつある昨今だ)。

その1998年に結成されたストレイテナーが2018年に結成20周年を迎える。
結成20周年。バンドを20年続けることの長さや重さは想像もできない。しかも彼らはメンバーの加入という非常に大きな変化を二回も選び、その契機のたびに表現のスケールを一段一段とわかりやすく大きくしていった。

結成20周年の年をまたいだ2019年の1月19日、20周年のあれこれを締めくくるライブを幕張メッセ・イベントホールで観る。
公演のタイトルは『21st ANNIVERSARY ROCK BAND』というもので、これはまえのベスト盤のタイトルである「21st CENTURY ROCK BAND」のもじりかと思う。個人的には21世紀のロックバンドを名乗っているのがすごく好きだった。なぜならまんざらでもなさそうなその自負が頼もしすぎるから。

メンバーを紹介する映像がステージ上のスクリーンに投影され、ひとりひとりの名前が紹介されるたびに歓声があがる。四人が登場してそれぞれが軽いソロを取る短いセッションを終えて始まったのが「BERSERKER TUNE」、そして2曲目が「The World Record」、速い四つ打ちとミドルテンポの四つ打ちの並びにテンションがあがる。このバンドの演奏の特徴である動物っぽい獰猛さ(まるで噛みついてくるような)がよく出ている曲たちで、たぶんフルスロットルなライブになるんだろうなという予感がする。

続いて「Alternative Dancer」「DAY TO DAY」「タイムリープ」と聴かせる曲が続き、ここはいまの彼らの表現力が冴えるところ。というか、デビュー初期の猪突猛進ぶりからは信じられないような演奏でありアレンジだなと思う。その後の「Man-like Creatures」「Lightning」「Braver」の流れは圧巻で、ロックバンドがこんな緻密で繊細な表現ができるんだなとため息がこぼれる。"おいおいこのバンドはあのストレイテナーだぞ"なんてつい思ってしまうのだけど、ほんとうにいつからこんなバンドになったんだろう。もうなんでもできてしまうじゃないか。

なんでもできてしまう。ストレイテナーがロックバンドとしてなんでもできてしまうようになったのは、先述の通りそしてご存じの通り、ふたりから、三人、四人とメンバーを(それも最高の奏者を)増やしてきたからだと思う(こんな例、ないんじゃないか)。
いまでこそこの四人ならどんな激しさも優しさ明るさも暗さも表現でもできるといった貫禄があるけれど、三人の頃は三人の、ふたりの頃はふたりの制約をうまく逆手に取った楽曲を彼らは発表してきた。ふたりの頃は、私見ながら普通ではない形態ゆえに色眼鏡で見られていたこともあったように思うけれど、その編成でも楽曲を見事に成立させる創意工夫はさすがだった。そしてメジャーデビューとほぼ同時に三人になりキャリアやセールスを重ねたころ、スリーピースのギターロックバンドとしてできることはやり尽くしたと云わんばかりに最後にもうひとりのギタリストが加入していまに至る。そこからは表現への制約が遂に無くなってしまったというか、楽曲が天井知らずにカラフルになっていく。

「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」「冬の太陽」「TRAIN」と得意の(超得意の!)疾走感に溢れた曲を畳みかけてライブはひとつのピークを迎える。やはりこの疾走感というか、これくらいのBPMの曲をこの四人が演奏すると無敵だよなと思う。続いてバンドはセンターステージ()へ、そうセンターステージである。となるとアコースティックセット?(これも上手) と慣例的に思いついてしまうがそこはひねくれているとこの日も自称するストレイテナー、ホールの上空ど真ん中のミラーボールをきらきらと回して「VANISH」「瞬きをしない猫」「KILLER TUNE」「DISCOGRAPHY」と主にダンスチューンを立て続けに披露する。ほんとに曲調の間口が広いなと半ば呆れてしまう。

ステージに戻ってからはゲストにシンガーソングライターの秦基博を招いて「灯り」「鱗」の2曲を演奏。ストレイテナーはバックバンド的位置づけになってもすごいし贅沢。しかし秦基博、はじめて観るけれど歌の表情付けがすごい。あ、ポップスの人はちがうな・・・・・・と唸ってしまった(さすがのオフィスオーガスタ)。
ミドルテンポで聴かせるモードのまま「Boyfriend」「彩雲」と続け、最後は「REMINDER」「The Future Is Now」「原色」「Melodic Storm」「シーグラス」と新旧の代表曲を織り交ぜて本編を閉じる。最近の曲はメロディも曲調もとても開けていて大きな会場が似合う感じがするけれど、さんざん聴いたり観たりしてきた「REMINDER」や「Melodic Storm」もそういった風格を備えているなと思ったし、この2曲は"みんなの歌"になったんだなという感慨にふけりながら、僕はオーディエンスの合唱を聴きつつじーんとしていた。

ライブのさなか、ステージに立つ四人の男を見ていろいろな事を思う。

ホリエアツシの書く曲はファンタジーの様な物語感のある世界観を有するものから次第に現実に足の着いた、メッセージ性のあるものにシフトしていったように思う。ギターを弾きながら歌ってもピアノを弾きながら歌っても、やっぱり優しさや懐の深さみたいなものを近年は感じさせるし、そんな歌い方ができるようになったんだな、と思う。

ナカヤマシンペイのドラムが僕は好きで、どこが好きかというとその叩き方が好き。モーションというか振りかぶりが大きくて動物っぽいところが単純にかっこよく、近年の複雑な曲の彩り方も見事なんだけど、やっぱり疾走系の曲で本能をむき出しに全身を使って弾けるようなドラムがすごく好きだ。

日向秀和のベースはほんとにもう、いまさら褒めてどうにかなるわけではないのだけれど、この人は確実にベースの人口や売り上げの増加に貢献しているのではないだろうか。あとロックバンドにおけるベースの概念をちょっと変えてしまったというか、こういう風に弾いてもいいんだ、こんな音を出してもいいんだ、という大胆な提案をし続けて、それを実力で認めさせてしまったように思う。

大山純のギターはどんなギターか? そんなことをずっと考えながらライブを観ていたのだけど、このひとのギターはいい意味でエゴがぜんぜん感じられない。曲に対してのアプローチが柔らかい印象がしてなんというか透明になることを目指しているのかなというか、固有のスタイルを通すのではなく常にベストの選択をしているように見えた。たとえば「羊の群れは丘を登る」のイントロのフレーズは本当に凄まじくて、これは曲に寄り添うことを考え尽くした最高の結果だ、なんて勝手に思う。

アンコールでは「From Noon Till Dawn」とその「羊の群れは丘を登る」を、ダブルアンコールでは「SPIRAL」と最後はこれしかないだろうという万感の「ROCKSTEADY」を披露する。
最後にホリエアツシは未来のことは何も決まっていないけれど、いままでもそしてこれからもこの四人で音楽を続けていきたい。という意味のこと語る。彼の形容の難しい独特の歌声(なんて表現すればいいんだろう、この声は)に爆発的かつユニークだったり優しかったり、どんな演奏もできてしまう三人が時間をかけて順番に集まって、はじまりから20年が経ちいろんなオーディエンスやステージや音楽性を獲得して、このバンドはいつのまにか日本のロックの真ん中あたりに立ってしまっているのかもしれない。なんて思う。そして万雷の拍手を受けながら客席に向かって礼をする彼らをみて、ひねくれていることにまっすぐなままここまで来たし、来れたんだな。なんてことを思った。