ロックンロール紙芝居電子版

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たのしいアルペジオ入門

アルペジオという奏法がある。これはギターでも重要な技法のひとつである。wikipediaに頼るまえに自力で説明してみると"音をひとつずつ伸ばして複数の音を奏でる技"という感じになるだろうか。口で説明してみると(よしなさい)"たららら~ん♪"という感じになるだろうか(伝わるだろうか)。
たとえば任意の、ギタリストが所属するロックバンドのアルバムを通して再生すれば必ずどこかに出てくるはず。そう、日常にアルペジオは潜んでいます(と、ここまで書いて思ったのですがRage Against The Machineにはまず出てきませんねアルペジオ)。
念のためwikipediaを紐解いてみます。

アルペッジョあるいはアルペジオ(伊:Arpeggio)とは、和音を構成する音を一音ずつ低いものから(または、高いものから)順番に弾いていくことで、リズム感や深みを演出する演奏方法。日本においては順番に弾くことだけではなく、コードを抑えた状態で弦を一本ずつ弾く事全般を言う場合もある。「ハープ(伊:arpa)を演奏する」という意味のイタリア語"arpeggiare"を語源としている。

wikipedia完璧、これ以上云うことはないという感じ。勉強になります。アルペジオはコード弾き、単音弾き、と同じくらいポピュラーすぎる奏法なので、とくに技という意識もなく半ば無意識のうちに採用される非常に日常的な奏法だ。だけど音の選び方と弾く順番と譜割(音の長さ)の選択で印象があまりにも異なりすぎるため、奥が深すぎる奏法でもある。
そう、比較的簡単なプレイなのに個性が出やすくて非常におもしろいのがアルペジオ

だからつまらないアルペジオというのもある。たとえばコードがCのときにそのまんまCのコードをおさえて低い音から順に"ドミソドミ~♪"なんて弾くと、そのまんますぎてなんの意外性もフックもなくてつまらないな、なんて思う(もちろんそれがアンサンブル上の正解であるケースもあるわけだから奥が深いわけなんだけど)。

では逆にいいアルペジオとは何か? えっと、なんだろう・・・・・・(考えています)。音数が少なくても印象を残すやつはいいなと思う。たとえばNIRVANASmells Like Teen Spirit」のヴァース(Aメロのかっこいい云い方です)のあれ、"たた~ん♪"ってやつ。あれはいい。わずか2音なんだけどアルペジオ。あとで演奏が爆発するからこの音の少なさが生きる。あと、かかっているコーラス(音に揺らぎを与えるエフェクターの名前です)も超効果的で、コーラスの代表的使用例でもあるこのフレーズは印象に残りすぎてすごくいい。

あとはコードを分解して伴奏にするパターンで思い浮かぶいいアルペジオが、たとえばスピッツの「ホタル」。これはイントロがアルペジオ一本と歌で進んでいくのでアルペジオが低音もある程度担保しなくてはならず、アルペジオがひとり()で低域も中域も高域も担うんだけど音の選び方と並べ方あと音色がめっちゃ綺麗でうっとりしてしまう(これもコーラスが薄くかかってるね、アルペジオはコーラスが際立つんだな)三輪テツヤさんもアルペジオの名手のひとりだと思っている。

別のパターンだと曲のなかでずっと鳴っている系のやつも好きで、これはたとえばBUMP OF CHICKENロストマン」のイントロのアルペジオ(これもまたコーラスが薄くかかってる)。このアルペジオは曲中でテーマ兼隠し味としてわりとずっと通して鳴っていて、ギターロックとかでは定番のアプローチなんだけどちょっと説明してみるとコードが変わっても同じフレーズをただただ弾き続けているので、これをやると各コード時に音が緊張感のある感じにぶつかったり、手軽で楽に()偶発ラッキーパンチ的ないい感じの響きが生まれたり、知的でクールなループ感を演出できるのでおすすめのやり口です(弊害として飽きるみたいなときもあるけど)。

三つくらいにしておこうと思ったんだけどもういっこ思いついたので書きます。UNISON SQUARE GARDENに「クローバー」というとても素敵な曲があって、この曲はずっと同じリズムでルートだけを変えていくアルペジオが一曲を通して弾かれているのだけど、このアルペジオが主役ですといわんばかりに曲をずっと牽引していく様がすごくかっこいい。まさにアルペジオ曲というか、ここまでアルペジオな曲はなかなかないなと思う。このバンドは三人でいろいろやるのがほんとに巧い。スリーピースの音の薄さを逆手にとって際立たせているんですね、アルペジオを。

といった感じにアルペジオはいろいろなやり方があり個性やセンスが出まくる。
最後に、いちばん好きなアルペジオを奏でるギタリストについてすこし触れたい。僕はL'Arc-en-Cielのkenのアルペジオがいちばん好きで、この人のアルペジオの特徴はというと"どんなkeyでも開放弦を狙ってくる"ところだろうか。
キーや開放弦の細かい説明は割愛せていただいて(書いてみたんだけど結構な長さになってしまったので・・・・・・)kenが多用する開放弦を用いたアルペジオについてざっくり解説すると、どんな音程のルール(keyのことです)の曲でもギターの開放弦であるE(6弦)・A(5弦)・D(4弦)・G(3弦)・B(2弦)・E(1弦)という固定された音を強引に頻繁にアルペジオに織り交ぜてくる。それによってどんな効果が得られるかというと、音楽のルールや人間の指の動きの限界から外れた"やばい響き"が得られる。

この試みを無理矢理ピアノで換言すると弾いた白鍵の右上の黒鍵やすぐ隣の白鍵を同時に弾くようなもの、またはピアノではあり得ない"同じ鍵盤を二つ同時に弾く"ような裏技めいたことを(ギターではそれをたしか異弦同音といいます)するようなものだろうか。
ギターの特性、あるいは制約を逆手にとって強引に音同士をぶつけて複雑な響きを醸しだしていて、L'Arc-en-Cielの楽曲の持つ妖艶さみたいなものはこのやばい響きの妖しいアルペジオによるところも大きいと、これは断言できると思う。
一例として「虹」や「浸食 ~lose control~」や「winter fall」や「いばらの涙」や「forbidden lover」や「finale」なんかでこの人の変で妖しくてすごく綺麗なアルペジオが堪能できると思う。ただこれ、オリジナル曲なんかで真似しようとすると妖しくなりすぎてしまい雰囲気の調節が難しくなってしまうのだけど。

あたりまえに使っている用語であり技であるアルペジオを、趣味まるだしになりながらもあえて零から考えたり文章にしてみようという試みでした。