ロックンロール紙芝居電子版

Rock 'n' Rollの「'n'」になりたい

ジャズマスターをめぐる冒険

エレキギターにはいろいろな種類があって、くるり岸田繁はこのように歌っている。

 "テレキャスター フライングV SG
  レスポール ダン・エレクトロ
  ジャズマスター グレッチ ストラトキャスター
  It's Only R'n R Workshop! 

  リッケン・バッカー! Right!"

 「(It's Only)R'n R Workshop!」

 野暮を云えば抜け漏れは多少あるにせよ、このようにエレキギターにはいろいろな種類がある。車や煙草や冷蔵庫のように好みのものを選ぶことができる。

ジャズマスターというギターに昔から憧れていた。高校生の頃からだろうか、当時はヴィジュアル系のバンドが大好きだったので誰々が使っているから、とかではなかったのだけど(そもそもこのジャンルはフェンダー率が異様に低い。LUNA SEAINORANジャズマスターを弾くようになるのはずっと後のことだし)バンド雑誌に載っていたフェルナンデスというメーカーの広告の中の、中途半端でどこか不真面目な印象のする形のギターをずっと眺めたりしていた。
子どもの頃から王道でも邪道でもない中途半端なものが好きだったように思う。ギターでいえばストラトは真面目すぎて、レスポールはマッチョすぎる。テレキャスターは玄人好みすぎて、SGはやんちゃすぎる。もうちょっとダラっとしたギターを弾きたいという思いがあったのだ。

当時(僕がギターを弾きはじめた90年代後半のことです)は誰が弾いているイメージがあっただろうか、僕の観測範囲では田淵ひさ子(Number Girl)、車谷浩司(AIR)、上条盛也(PENPALS)たちかな。今思えばその頃からなんというかジャズマスタージャズマスターだったなという感じがする。もちろん、その頃の僕はグランジオルタナもインディも理解せず、同級生たちと組んだバンドでひたすらGLAYLUNA SEAやL'Arc-en-Cielのコピーに明け暮れていただけだったけれど(あれ、いまとやってることが変わらないな、どういうことなんだろう・・・・・・)。

海の外に目を向ければこのギターの使用者といえば、なんといってもケヴィン・シールズ(My Bloody Valentine)、J・マスシス(Dinosaur Jr.)、サーストン・ムーア(Sonic Youth)たちが挙げられるだろうか。彼らが植えつけたイメージはなかなかに強固で、ジャズマスターはギターを飛び越えて"概念"・・・・・・は云い過ぎだけど"姿勢"みたいにはなってしまったふしがある。付与されたのは王道に対して斜に構えてしまうひねくれた姿勢のイメージ。個人的にこの三人それぞれがライブにてジャズマスターを弾くさまを観ることができたのは、とても嬉しく大事な思い出になっている(すべての元凶をこの目で見てしまった。みたいな感じだ)。

僕がこのギターを買ったのは実はそう昔の話ではなくて、ほんの二年前のこと。ささやかな紆余曲折の果てに杉並のとある小さな楽器屋にてフェンダーのメキシコ、エンセナダ工場産のサンバーストのジャズマスターを中古で買った。
重たいハードケースを抱えて家に帰ってから、10時間くらいぶっ続けて弾く。いろんな曲やいろんな弾き方や音色を試して、これがどんなギターなのかを確かめてみる。いささか気障になるけれど、それはギターと会話をするという表現が一番しっくりくるようなとても楽しい時間だった(メタリカやハイスタが致命的に合わないと弾いた瞬間にわかり、ひとりで大笑いしたりした)。

ジャズマスターというギターはどんな音がするのか? もちろん文章にするのは難しいのだけれど、ここはそのためのブログなので諦めないで考えると・・・・・・高音も低音もしっかり出るけど固さや重さや芯の詰まった感じではなく、まるで空気が入っているかのように音がふっくらとしている(抽象的だ)。あと鈴みたいな変な音もする(抽象的だ)。実はボディの中がけっこう空洞になっていたり、鳴ってはならない部位がこっそり鳴ってしまっていたり、変なスイッチ(たまに使ってます)が付いていたりすることがこのギターのいささか普通ではない音を作っている感じがする。
だからか、変な意味でオケの中で浮くことがあるためポップスやハードロック・ヘヴィメタルなどの音のイメージがはっきりしているジャンルにはあまりその音色ははまらないけれど、逆にロックという実はなんでもありでぼんやりしているジャンルには向いているのではないか。なんて思う。

そもそもジャズ用に作られたがさして流行らず、楽器屋で安くなったところを若者がロックをやるために買いじわじわ広がっていったジャズマスターはいまでは結構人気があるらしいし(ギターマガジンにそう書いてあった)、Twitterを眺めるかぎりでは最大のシェアを誇る人気ギターという感じがしてそうそうひねくれ者でもなくなってきた様子があり、驚いたり嬉しかったり勝手だけどほんのすこしだけそのイメージの変遷が寂しかったりもする。

そんなジャズマスターを毎日自宅でたのしく弾いているわけなのだけど、個人的にはいつか、50~60年代につくられたじぶんより年上のヴィンテージのジャズマスターを弾いてみたいなと思う。買うのはいいんです、すごく高いし、そもそもバンドを組んでいたりアンプを通して弾くことがないので完全に分不相応だから。でも、どんなものなのか弾いてみたい。10分でいいから弾いてみたい。たぶん、感動すると思うから。